顔は浮かぶが名前が・・・・
「あの、あれ、だれやったかいな?」
「だれ?」
「ほら、あの、あの男よ。もうええ歳やけど」
「だれよ?」
「ああもう、ここまで出てるんやけど、あのほら」
「おとーさんの知った人? わたし知ってる?」
「知ってる知ってる、向こうは知らん思うけど」
「テレビに出てる人?」
「そうそう、たった今出てたんやけど、ママンが来る前にどっか行ってもた」
「観とこか」
「うん、観とって」
「だれよ?」
「出らんな。思い出した。いや本人とはちゃうで。三國連太郎の息子、あれ名前なんやったかな?」
「なんとかいうたな」
「そや、なんとかいうた」
「佐藤浩市、ちゃう?」
「佐藤浩市か。そやそや、それやそれ。顔はすぐ浮かぶんやけど、なんで名前も一緒に出てこんのかな?」
「チコちゃんの番組で言うてたよ、記憶する場所がちゃうんやて」
「ややこしいことすんねんな、セットで記憶できんのかいな」
「そやて、できんらしい」
「けど、顔はすぐ浮かぶのになんで名前が出らんのかな?」
「いま言うたことらしいよ」
「脳のなかの、記憶する場所か」
「そう」
「これが逆やったらどないなるんやろなあ?」
「どういう意味?」
「逆や。名前は憶えてるけど、顔忘れたいうやつ」
「どないなんの?」
「どないなるんやろ? 顔やったら、顔たよりに名前思い出そうとするけど、反対やからな、名前から顔検索するいうわけか」
「名前から顔思い出すなんて、できるの?」
「できんことないやろ。馴れてもうたらな」
「馴れの問題やろか?」
「と思うで。たとえばな、名前が安倍晋三さんするやろ。そこからその人に合うた顔をあれこれ思い出そうとするんや。あれ違うこれちゃう、みたいにな」
「なんや、けったいな具合やな」
「けったいか?」
「けったいや」
「笑うか?」
「笑われへん」