カラスの出番
「ママン、ええのがおった」
「なに?」
「いや、ええの見つけた、言うてんねん」
「なんのこと?」
「いま、世間的には人手不足いうてるやろ?」
「そうらしいな、知らんけど」
「『ネコの手も借りたいほどの』いうやろ。というて、ネコの手借りても、孫の手ほどの有り難みもない、それにネコはきまぐれであてにならんしな」
「なにが言いたいの?」
「そやさかい言うてるやないか、ええのが見つかった、いうて」
「おとーさんの話は、さっぱりわからん」
「50年も一緒におって、さっぱりとはこれいかに、やで」
「わからんもんはわからん。だれんでも、3ツの子ォにも『わっかりました~
りょうか~い』いうてもらえるくらいに、なッ」
「なッって、カラスやがなカラス、テレビで観なんだか、かしこいでえ」
「観た観た。どこかの水飲み場で、クチバシうまいこと使うて、勝手に水出して飲んだり、水浴びしてるあれやろ」
「そう、あれあれ」
「あれあれて、あのカラスがなんやの?」
「そのクチバシよ」
「クチバシがなんよ?」
「ネコの手より役立つんやないか、言うてんねん」
「あほらしい。おとーさんの話、まともに訊けんわ」
「そないなこと言いな。チコちゃんとこのカラスのキョエちゃん、知ってるやろ、『オカムラのバカ~』言いよるし、視聴者からのお便りもクチバシにくわえてるんやで」
「そらそうやろけど、どんな役に立ついうの?」
「たとえばやなー、『ゴンベが種蒔きゃカラスがほじくる』いうやろ?」
「わたしに訊かれても、知らんがな」
「そこでや。『どこでや?』なんて合いの手はいらんで」
「なにも言うてへんがな」
「そこでや、・・・」
「はよ、言いんか!」
「たとえばやな、収穫したばっかりのアズキとかダイズ、虫食いとか割れたんとか不良品があるやろ。あれをコンベアーで流してひとつひとつ、人の手で選別してたんをテレビで観たことあるんや」
「なるほど、そこでカラスの出番、いうわけやな」
「そういうこっちゃ、ええアイデアやろ。仕込んでやな、エサ代だけや経費は、人手不足の解消とまではいかんやろけど、うまくいきゃ、経産省から表彰されるで」
「なにを夢みたいなことを。カラスはやな、保護鳥なんや、『捕ったらアカン』いうことになってるの、知らんか?」
「えッ、ほんまか? 知らんかったなあ? けどよーけおるで。迷惑しとる人もよーけおるらしいで。それでもあかんか」
「あかんあかん、カラス捕まえる前に、おとーさん捕まんで」