どないいうてええんか?
「40歳になったころのことやけどな」
「40歳? なにかあったん?」
「いや別に、ママンに告白するほどのことがあったわけではないけどな」
「40歳いうたら、もう30年以上も前の話やで」
「あのころ、駅まで15分ほど歩いて、電車通勤してたやろ」
「そやったね。近くにも駅あったんやけど、乗り換えるのがいやや言うて、歩いてたな」
「そうそう、よう憶えてるな」
「憶えてるやろ、気ィつけや」
「往復の、歩きながらのことやけど、やっとまともな仕事に就いて、定年の60までまだ20年あるな、なんやえらい実感のない、遠い先の話みたいに思うたんを憶えてるんやけど、なんのことはない、60どころか、来年は後期高齢者や」
「早いね」
「早い」
「一週間たつのの早いこと」
「なあ。もう3月やで。各駅停車やったんが、特急になって、夏秋止まらんと、ふゆ~ふゆ~てなことにならんとも限らんで。チコちゃんやないけど、ぼーッと生きてたら、気がついたら死んでた、てなことにならんとも限らんな」
「けど考えてみると、なんやかやと言いたいことないわけやないけど、この国のこの時代に生きられたことは運がよかった、幸せやったいうことやろな。親の世代の話みたいに戦争に遭うたわけやないし、腹減ったいうても知れてるし」
「そやね。おとーちゃんなんか戦争2回も行って、えらい目に遭うた言うてた」
「テレビで外国の争いごとのニュースなんか観ると、かなんなあ、なんで、あないなことになるんやろ、いろいろ事情があってああならんとしゃあない、てなもんやろけど、もし自分があそこにおったらやっぱりあないなことしてるんやろなあ思うと、賢いんか愚かなんか、わけわからんわ」
「けどかたっぽうでは、ゆーがな生活してる人もよーけいてるで」
「そやねん。かたっぽで幸せや言いながら、かたっぽではもっとええ暮らししたい、うまいもん食いたい、ええとこ住みたい、動かれんようになったら、テレビでやってた、あれなんやったかいな、石坂浩二が出てたなんとかのさと」
「やすらぎの郷やろ」
「そうそう、あんなんええなあ、ああいうところやったらな思うから、始末におえんな」
「しゃーないわ」
「しゃーないな」