わかってるやないの
「ママン! あれあれ、テレビテレビ」
「なんやのん、あわてて」
「ほら、お父さんが娘の部屋に入ったやろ」
「それがどないしたん?」
「娘、勉強机で居眠りしてるけど、バラバラに分解したカメラが机の上にあるやろ?」
「あのカメラ、お父さんが大事に使いや言うて、娘にやったやつとちゃうの?」
「そうや。最初はあっちこっち風景写して楽しんでたんやけど、中は、どないな仕組みになってるんやろ思たんやろな、分解したまま居眠りして、お父さんに見つかってしもうた、いう場面や」
「怒られるで。お父さんの声、もうそんな感じやもん」
「なあ、ここやここ。おとーさんが試される場面や」
「試されるて、どういうこと?」
「普通、親やったら、おとーさんおかーさん関係なくたいがいの親やったら怒るんが当然やろ」
「そやろ、大事にしいや言うて渡したんをバラバラにしたんやから、わたしやっても怒ると思う」
「そら、おれかてそうすると思う、やのうて、実際そうしてきた親やったからな」
「そやろ、それが普通ちゃうの」
「普通かどうか調べたわけやないからわからんけど、やっぱり賢い親やったら『ん? 待てよ』思うんちゃうか」
「賢い親やったら、子供の好奇心とか才能とか、これからのことを考えるいうこと?」
「そうそう、そういうこっちゃ。ママン、腕あげたな」
「あほらしい。これくらいだれかてわかるわ」
「ほんまはな。ほんまはそうやけど、もうおとうちゃんにしてはもう、バラバラになったカメラしか目の中にないからな。怒るのはしゃーないけどな」
「そやろ。怒るのはしゃーないよ」
「けどやっぱり、こーかいしてるおれとしては、『うーん、あかんな。なんであそこで気づかなんだんやろ』思てしまうんやな。人ごとやのうて」
「そんなに悩むんやったら、テレビもうやめとき。どもならんやろ、知らんけど」
「こんなんいかにもわかったみたいに言うてるけど、どっかでまた、おんなじこと繰り返すんやろな、懲りもせんと」
「わかってるやないの」
「笑うな」
「笑われへん」