大関昇進・貴景勝
「おサムライだったのかとは知らぬヤツ」
「なにそれ?」
「川柳」
「川柳?」
「そう、川柳」
「どういう意味よ?」
「そやてねえ」
「テレビで観たやろ?」
「観た」
「協会から使者が来て、『謹んでお受けします』言うやろ。そのあとの口上が、これまでは四文字熟語が人気やったけど、まさかここで『武士道精神』なんて言うとはびっくりポンや」
「武士道精神てどんなん?」
「貴景勝が言うてるんは、『勝って傲らず、負けて腐らず』いうことらしい」
「えらいね」
「えらいな。22歳やでまだ」
「おとーさん、それはええけど、それと川柳と、なんのかんけーあんの?」
「かんけー? ないよそんなん」
「ないのに言うたん?」
「そや」
「かんけーもないのに、なんで言うたん?」
「思いついたからや」
「けったいなおとーさんやな」
「どういう意味なん?」
「川柳の?」
「そう」
「貴景勝が相撲取りとは知らん人がおったとするやろ」
「はあ、たいがいの人は知ってると思うけどな」
「たいがいの人はな。まあこれは知らん人がおったとしての話やけど、相撲取りアタマにちょんまげ乗せてるやろ。それで口上で武士道精神なんて言葉が出たんで勘違いして、『あの人おサムライか?』とだれかに訊いた、という設定や」
「おとーさんもわけのわからんこと考えるんやな」
「ヒマつぶしや。笑うやろ」
「笑われへん」