目覚まし時計
「鳴った?」
「鳴った」
「止めてくれた?」
「止めた」
「何分やった?」
「見てない」
「だれか書いてたけど、みっつかよっつ、目覚まし用意してたらしいな」
「だれのこと?」
「イチロー」
「へえー、そうなんや」
「おれ、目覚ましが鳴るまえに、たいがい目が覚めるけどな」
「それやったら、いらんやん」
「そやけどな、あかんねん」
「いっぺんやってみたら」
「勇気ない」
「仕事、遅れてもええやん」
「人ごとやから言えるんや」
「すんません、目覚まし途中で止まってしもうて、言うたら済むやろ」
「そらそうやけど」
「それでええやん」
「やっぱり目覚ましないとあかんな」
「けど、鳴るまえに目が覚めるんやろ」
「そや」
「それやったら」
「あかんあかん。起きるためやないねや。ぐっすり寝るために目覚ましがいるんや。起こしてもらわいでもええ、勝手に起きるから、ぐっすり寝かしてくれいう意味で目覚まし掛けるんやから」
「かわってるな、おとーさんは。目覚まし時計、その時間に起きるためにあるんやで。勝手に自分で起きるんやったら、いらんやん」
「わかってるわ、そやけどいるんや。万が一のこと考えたらな」
「それやったら、ひとつでええの?」
「なんで? ひとつでええやろ」
「万が一のとき、言うたな?」
「ああ、言うたよ」
「そやさかい、ひとつでええの? 訊いてるんやろ」
「ああ、そういう意味か。ひとつじゃあかんわなあ?」
「あかんわなあって、何考えてんの。ようこれまでひとつだけで、暮らしてきたな」
「とくにどってこと、なかったからな」
「そやさかい、いらんねや、目覚まし時計」
「いらんのか」
「いらん、いらん」