もだえる
「くまでーす」
「もんでーす」
「(同時に)ふたりあわせてくまもんでーす。よろしくお願いします」
「というわけでね、もんちゃん」
「はいはい、今日はどんな話するんですか?」
「ふたりとも熊本出身だけんね、方言ばちょっことだけでん知ってもらおか思て」
「今日んお客さん、儲けたね」
「なんの話な?」
「タダで熊本弁勉強でくっとだろ? ぬしゃ、腹ん太かねー、たまがったばい」
「あた、なんば言うとっとな、そぎゃんとつけむにゃ話じゃなかろが」
「子供の頃の話ばってんが、通うてた中学校に新任のおなご先生が来たったい」
「うんうん」
「こん先生(しぇんしぇ)は東京の大学ば卒業して来はった人で、『この学校へ来てびっくりしたことがひとつある』言うてな」
「なんのこつな?」
「急いでおいで、いうんを『もだえち、来い」言うなあ」
「ああ、言う言う」
「子供んころで分からんかったばってん、今でん憶えとっとはそこになんか危険な匂いば感じ取ったんじゃなかろか思とる」
「ぬしゃこんまいとっから、スケベーで評判とっとたったい」
「なんば言うとっとか、あたにゃ負くる」
「というようなわけで、熊本弁講座、今日は『悶える』を覚えていただきました。熊本へおいでになって、たまたま子供同士がこの一語を大声で叫んでおりましても、決してびっくりなさいませんように。ご静聴ありがとうございました。くまもんでした」