自ずから然り
「ちょっと勘違いしてたわ」
「なにを?」
「自然のこと」
「自然のこと、てなに?」
「自然という言葉はいろいろなところで使われてるやろ?」
「うん、例えば?」
「わかりやすうに言うたら、アフリカとか、アマゾンの大自然とか言うやろ?」
「そやねえ。自然な態度とか、自然な振る舞いとかも、言うわなあ」
「それでなあ、『自然』という言葉を発見した人はだれやろ? いま言うたみたいなアマゾンとか、ママンが言うたみたいな、まあ、あるがままの姿というか状態というか、これを『自然』と呼ぼうと最初に言うた人、まあ言えばそこに気付いた、おれ流に言えば発見ということになるんやけど」
「その人がだれかわからへんの?」
「わからんかったんや。けどわかったんや」
「だれなん?」
「中国の人でな、荘子という人」
「それやったら、自然という言葉は最近出来たん?」
「いやいや、大昔の人や。いまは西暦でいやぁ2019年やけど、それよりもっと昔の中国の人や」
「その人が自然という言葉の第一発見者ということになるわけやな」
「簡単に言えばな」
「なんとかいうんに登録したら、大儲けできたんちゃう?」
「昔のことやからな」
「それでおとーさん最初に勘違い言うてたけど、あれなんのこと?」
「そやねん。自然という漢字をふたつに分けると『自ずから然り』ということになるやろ?」
「そやなあ」
「そもそもで言えば、あるがままの状態、空気があって土があって、そこに柿の種がひとつ落ちてたとするやろ?」
「柿の種やないとあかんの?」
「別に柿の種やないとあかん言うてるんやないで、桃の種でもドリアンの種でもええけど、例えば、やからな」
「分かった」
「そこにお日ィさんが当たっていつしか柿の種から芽が出る、時々雨も降って芽はやがて大きな木に成長して花が咲き、やがて実が生る。これがまあ、あるがままの姿、自ずから然り、自然ということやけど」
「そやなあ。それやったら別に勘違いでもなんでもないやん」
「うん。おれもちょっとアタマんなかこんがらかってきたけど、一言で言やあ自ずから然りというんが初めにあって、それが自然と呼ばれるようになったちゅうわけやけど、最初から『自然』という言葉にこだわったんが間違い、勘違いやったいうことや」
「わかったようなわからんような。これからイズミヤ行くけど、これも自ずから然りか?」
「行ってるあいだ、考えとくわ」
「行ってるあいだって、おとーさんも行くんやで」
「ハイ」