朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

老後の心配

「この前、ビーエスで『黒澤映画の特集』やってたやろ」

「『七人の侍』とかやろ」

「そうそう。『用心棒』とか『椿三十郎』とか観てて思たんやけど、三十郎はんは老後どないしはるんやろ? そう思てな」

「映画観て普通、そんなこと思うか?」

「いや、あの映画な、おれが最初に観たんはハタチ前やったんでもう50年以上昔の話やけど、もういっぺんでメロメロになってもうて、三十郎はんの老後なんかこれっぽっちも考えことなかったんや。けど、半世紀の月日というやつはえらいもんやな」

「おとーさん、なにをええカッコして、ひとりでおさまってんの」

「いやいや、ほんまの話やで。『用心棒』では相手がヤクザやったんであいつらのヨージンボーやったところで腕が立つあいだはええけど、六十郎七十郎まで面倒みてもらえる保証はないからな。どころか、簀巻きにしてポイされるのがオチやからな。それにくらべて『椿三十郎』なら、相手がサムライや。腕が立ついう武器がある。その証拠に仲代達矢の室戸半兵衛に『どや、一緒にやらへんか?』言われるし、伊藤雄之助が家老やってるお城に仕官も無事叶うたんやけど、若いからなあ。『名前ですか? 名前は、椿三十郎。そろそろ四十郎ですが』なんて、笑いとってる場合やなかったんや。あああのとき、『お願いします』なんで言わなんだんやろと、七十郎まで生きとったとしてやで、後悔するんちゃうかと、そんなこと考えてしまうんや」

「おとーさん。映画の中の人の心配するヒマがあったら、自分の心配したらどない?」