アベさんからの電話
「ママンがコープに行ってるあいだに、アベさんから電話があったわ」
「アベさんて、あの総理大臣の?」
「そうそう、あのアベさん、な、な、なに言わすねん、アホなこと言いな、なんで総理大臣から電話があんねん」
「けどアベさんいうたら一番最初に頭に浮かぶんはあのアベさんやで。ニッポンで一番えらい人やで」
「まあまあ、そらそうやけど。・・けどママン、ウデ上げたな。おれがアベさんから電話あった言うたら、間髪をいれず総理大臣のアベさんか? 言うとこみると、ふたりで漫才の勉強したらそこそこ行けるんとちゃうか」
「おとーさん、まだわたしを働かすつもりか、やっとれんわ!」
「うまい! うまいなあ。素質あるで」
「やめとこ。アベさんて誰?」
「ママンの知らん人や。結婚する前におれ、トラック乗ってたやろ」
「ああ、4トントラック持ち込みでビン運んでたな。あのころの人?」
「そう、配車してた人」
「なんでそんな人から電話があったん?」
「付き合いはないんやけどな、年賀状のやりとりはしてたんや」
「ふーん、なんの電話やったんやろ?」
「夢見たんやて、おれが死んだ夢」
「縁起でもないこと言いな。失礼やで」
「そんなことないわいな。どないやろ思て、心配して電話してくれたんや。有り難い話やで」
「まあ、おとーさんのことやから、おとーさんがええ言うんやったらええけど」
「それがな、不思議なんや。こんなこともあるんかいなー思うような話やけどな」
「なにかあったん?」
「おれもゆうべやないけど、何日か前にアベさんが死んだ夢見たんや」
「総理大臣の?」
「なに言うてんねん! こわい話すな! しゃれにならんで」
「そない言うても、夢やから」
「まあまあな。けど、不思議やろ。人から聞いても、そんな話あるかー思てたけど、自分がそうなると、やっぱりあるんやなー思うな」
「アベさんにはその話したん?」
「いや、しなかった。でけへんわ」
「そやね、できんやろ思う」