童謡「ウサギとカメ」の欺瞞を暴く
「もしもしカメよカメさんよ~世界のうちでおまえほど歩みののろいものはない~どうしてそんなにのろいのか~」
「おとーさん! 急になんやのん。唄になってないやないの。簡単な歌やのに音程むちゃくちゃやで」
「ママン、オンチや言いたいんやな。世間ではそう言うてるけどな、これはな、おれの個性や」
「なにが個性やのん。個性やったら、個性も調子が外れてるということやな、知らんけど」
「うまいこと言うて、おだててもなにも出んで」
「2番の歌詞が気にいらんな」
「どこが?」
「ママン、歌詞知ってるやろ?」
「知ってるよ」
「唄うてごらん。おれが唄うよりええやろ」
「ええよ。なにをおっしゃるうさぎさん、それならお前と駆け競べ、向こうのおやまのふもとまで、どちらが先に駆け着くか~」
「パチパチパチ。さすがうまいなあ。イヨッ! 平成最後の小鳩くるみ」
「なにそれ。わたしそんな人知らへんよ」
「まあ、ええからええから。ひとつ注意しとくわ。むこうのおやまのふもとまで、言うて唄たやろ? あれな、おやまやのうて、こやまが正解、調べてわかったんやけどな」
「ほんま?」
「まあ、このくらいはどーッてことないけどな。けどおれが気になったんは、なにをおっしゃるウサギさん、ここからの歌詞が気になったんや。なにをおっしゃるうさぎさん言うたんは、だれ?」
「なに言うてんの? ウサギとカメしかおらへんのやろ? そしたらカメがウサギに言うてるに決まってるやん。ウサギとカメが日本語話せるとしての話やで、知らんけど」
「そやな。そしたらな、その次の歌詞、それならお前と駆け競べ、これを言うてんのはウサギかカメか、どっち?」
「えーッ!? 急に訊かんといて。どっちやろ? カメが、なにをおっしゃるウサギさん言うたわけやから、それに対して、それならおまえと駆け競べ言うたわけやから、ウサギが言うたいうことになるな、知らんけど」
「そこそこ。問題はそこにあんねや。1番の歌詞はなんて言うてるか、というとな、ウサギがカメに対してな、歩みがのろいのはなんでや? 訊いてんねん」
「そやねえ? 1番の歌詞は、そやねえ」
「ところがカメはなにを血迷うたんか、ウサギの質問を無視して、反抗的態度に出るやろ。なにをおっしゃるウサギさん、言うてな」
「そうか、そやそや。カメは万年も生きる言われてるわりには、あんまりかしこないなあ」
「そやろ。まあカメだけやないけどな。ウサギもチョボチョボやけどな。勝つのはわかってるのに、挑戦したりしてな」
「けどおとーさんも、よっぽどヒマ人やな。夜中に起きてコソコソ、なんかメモしてるけど、こんなこと考えてたんかいな、カネにもならんのに」
「まあ、ボケ防止いうことにしとこかな」