零和元年 春の叙勲
「ママン、ママンの名前さがしたけどなかった」
「わたしの名前? さがすてなに? 意味わからん」
「いや、新聞に載ってるかなー思てさがしたんやけど、いろんな人の名前よーけあるんで、さがすんに目がチラチラしたわ」
「なんでわたしの名前が新聞に載るの? なにも悪いことしてないのに」
「いやー、ええことした人の名前が載るんやないか」
「ええことて、なーんもええことなんかしてないよ」
「してるやないか。ザル洩れオットの貧しき年金、兵庫県最低のパート賃金にも文句ひとつ言わず家計を切り盛り、ツメに火を灯すようにしてなんぼかでも残そうかというその涙ぐましさ、まるで『おしん』をほーふつさせるよーな女性、それがママンやないか。ママンのよーな人間を載せんと、新聞なにしてんねん。ボーッとしてたらアカンぞ」
「おとーさん、なんーーーぼ持ち上げても、なーんも出えへんよ。もう身にシミてるからね。食うかいその手」
「ちゃうちゃう、そやないねん。春の叙勲が新聞に載ってたんでそれをサカナにママンとヒマつぶしでもしょーかなー思て」
「それやったらそーと。なんやのん持って回ってややこしい」
「いやいや、ラクゴでいうマクラ、ツカミやな」
「えーわもう、そんなんややこしい。ジョクンかジョキンか知らんけど、どーせ似たよーなもんやろ、ややこしいことキライや、知らんけど」
「ジョクンとジョキンを一緒にするとは、さすが、ウデあげたなママン」
「春のジョクンて、なんのこと?」
「セージ家とか、コームイン、裁判官、ガッコのセンセーやらほかもろもろの、長年にわたって世の中の為になった、国民のために働いた、またゲーノーやスポーツの世界で国民を楽しませたり、元気づけたりした人に政府が『よー頑張った。褒めてつかわす』ちゅうんが、簡単に言やあ、叙勲や。春と秋の年2回あんねん」
「へーえ、けっこーなご身分やこと。知らんけど」
「昨日のテレビニュースでやってたけど、元兵庫県議のオッサンも上から6番目にランクされる『旭日中綬章』ちゅうんをもろうてんねん」
「へーえ、よかったやん。喜んではったやろ」
「喜んではったかどーかはわからんけど、この人、まだ現役のころの話やけど、政務活動費の領収書書き換えやったんちゃうかーいうて、問題になったことがあったんや。情けない話やで。さすが県議だけにケンギかけられたわけやな」
「くだらんシャレいうてる場合やないよ。えー? そんな人でももらえんの?」
「らしい。そんなんも含めて兵庫県会議員団のオッサン連中が推薦して、政府が『かまへん、ええよ』いうたらしい。テレビがそう言うてたからな」
「へえーえ。あきれるわ」
「そやろ。なあ、こんな人たちが人前ではえらそーに、自分のことは棚の上の見えんとこにほーりあげて、やれ道徳ややれモラルやと言うんやろな。時代が今でよかったな。コーモンさんの時代やのうて」
「なあ。政府がやる言うても、イチローみたいに『いりまへん』言うて断るホネのある人はいてへんの?」
「いてはるかも知らんけど、知らんなあ」
「もしおとーさんやったらどーする?」
「おれ? おれ? おれ? おれ?」
「もーええ」