朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

かきつばた

「ママン、ゆうべのテレビ観た?」

「どんなんやった?」

「浮世絵」

「浮世絵? ゆうべそんなんやってた?」

「ゆうべやったと思うけどな?」

「そらおとーさん、今朝のことやろ。ヨシワラのおいらんの浮世絵」

「それそれ。今朝やったか?」

「おとーさん起きてすぐテレビ点けたやろ。そんときやってたやん」

「そーか、そやったか」

「おとーさん、こんなんやったらチコちゃんあきらめて、もーなーんも言わへんよ。かわりにわたしが言うてあげるわ。ボーッと生きてんじゃネーヨ!」

「アリガト。ボーッと生きてるつもりやないけど、この自覚なしいうんがボーッと生きてる証拠かもしれんなあ」

「なにをブツブツ、ひとりで納得してんの。なんなん、浮世絵がどないしたん?」

「いやあ、絵には描かれて内容によっていろいろ謎があったり意味があるいうんは聞いて知ってたんやけど、あのヨシワラのおいらんの浮世絵、背景の一部に描かれてるカキツバタにそないな意味があるなんて知らなんだなあ」

「わたしチラッとしか観てなかったんでわからんのやけど、どんな意味があるん?」

「ママンはアリワラノナリヒラて知ってる?」

「なにそれ?えッ? 人の名前? どっかで聞いたような気もするけど、知らんなあ」

「大昔の人でな。おれもよーは知らんのやけど紫式部とか清少納言とか、光源氏やら百人一首やら、そのころの人や思うんやけど、えらい男前だったいうハナシやで」

「そのアリワラのなんとかさんと、浮世絵のなんやった? そうそうカキツバタな、それがどんな関係があるん?」

「そのカキツバタな。この花を見はったんやアリワラノナリヒラさんが旅の途中で歌を詠んだちゅうハナシや」

「大昔の人やろ、ナリヒラさんは? 電車もなけりゃ新幹線もない昔のことやろから、歩いてやろ? どっかでそのカキツバタの花が咲いてるんを見はったわけやな?」

「そーいうこと。そして歌、和歌やな、今でいう短歌やけど、その歌が『からころも、なんやらかんやら』いうんやけど最初のからころもだけは憶えてるけどあとは知らんのやけど、その歌の内容いうんが、ひとり旅をしてるナリヒラさんが京のミヤコに残した妻のことを思うてこの歌を詠んだ、いうハナシや」

「それやったら、その歌のなかにカキツバタが出てくるんやな?」

「ところがな、カキツバタは歌の中にはないんや。いやまったくないわけではない、けどな」

「なんやねんな、どっちなん? わけのわからんこと言うて」

「ナゾかけみたいなハナシやけどな。カキツバタいう言葉、和歌は文字数が五七五七七31文字でできてるんやけど、この五七五七七のアタマにつく文字を合わせるとカ、キ、ツ、バ、タと、こういうことやな」

「へえ~えェ、昔の人ってえらいややこしいこと考えるんやなァ。けどなんでヨシワラの浮世絵とカキツバタと、どんな関係があんの?」

「この歌、ナリヒラさんが奥さんのこと偲んで作った歌やろ。そやさかい、ヨシワラでどんちゃん騒ぎ遊び呆けてたらアカンで、家では奥さんが待ってるで、はよ帰りやーいうんでカキツバタ描いてあんねん」

「へえ~え。そんなことまで考えて、絵は観らなアカンの。観る前に疲れるわ」