バナナ一房とパイナップル
「ママン、ジャム作るわ」
「バナナ?」
「そう、一房は多いやろ。ジャムにしたら長持ちするからな」
「これ、いくらやったん?」
「298円やったかな。ママンとふたりやから一房は多い思たんやけど、安かったから買ったんや。なあ。おれらが子供のころから考えたら、考えられへんわな」
「そうやね。食べられるいうたら、病気したときくらいやったからね」
「果物屋の店先にあったんを通りすがり見るだけがやっとやったからな。一房なんてとんでもないハナシで、1年に1本、食えるかどうかやからな」
「パイナップルかてそーやね。1個200円で買えるんやから」
「そやなー。よー食べたな最近。ウマイねんなあ、これが」
「パイ缶しかなかったからね」
「そう、パイ缶パイ缶。リリー印のパイ缶。ナマなんを買うなんてとんでもない。バナナは台湾バナナいうんを売ってたけど、パイナップルのナマ、売ってるん見たことなかったからな」
「なんでこないに安うなったんやろ?」
「いろいろわけはあるやろけど、円高になったからやろな」
「けど、円安のほーがええとか、いうてるんやないの?」
「まあ、どっちもどっち思うけど、バナナもパイナップルも安うに食べられたらそれが一番やな」
「そやね」
「あと何年かして、今のこと思い出して、『あの頃はよー食べたな』いうこともあるかもしれんな」
「食べよか、いま」
「食べよう食べよう」