オレオレ詐欺よ、うちへ来い。
「どこからの電話やったん?」
「なんや、わけのわからん? 警察からやー言うて、おとーさんのカードの番号が漏れてるいうて、また電話します、いうて」
「それ、オレオレ詐欺とちゃうんか? けどなんでうちに電話かかってきたんやろ?」
「そやさかい、わけわからん思てるんやけど」
「なあ。のべつまくなし数撃ちゃ当たるで電話してるんやろか? うちの内情知ったら盗るどころか、カワイソーにな、なんぼかでも置いていこか、思うはずやけど」
「おとーさん、冗談やないよ。こんなんにひっかってえらい目に遭うた人ぎょうさんいてはるのに」
「けど、被害に遭うた人、千円2千円ならまだしも百万単位で貢いではるやろ。年間の被害総額が何百億円なんてどないしても信じられん」
「あるとこにはあるんやねえ。わたしなんかゼッタイひっかからへん。カネのカの字聞いただけでピリピリッと反応するから」
「そやな、ママンは大丈夫や。おれもそう思う。第一、カード盗られても残高ないんやから。あぶない橋渡るようなことせんやろ」
「おとーさんは注意しいや。なんか頼んないからな」
「前に筒井康隆さんが書いてたんを読んだことあるけど、あれは面白かったな」
「筒井康隆ってだれ?」
「うん。明石の手前の垂水に住んではるんやけど、小説家・SF作家や」
「ふーん。どんなこと書いてはったん」
「そーいうやつから電話があったらな。家に呼ぶんやて」
「あかんやん、それやったら」
「まあな。おじいさんのハナシやけどな。もう十分生きた、これから先に未練はない。そこで家でそいつが来るんを今か今かと待ち構えるんやて。来たら愛用の刀でそいつを斬り殺すと、そういう段取り」
「そんなんやったら、えらいことやで。ケームショ入らんならんことになるやんか」
「まあ、それも計算の上のハナシやろけど、被害に遭うた人の身になれば、そのくらいの気になるんとちがうか」
「なあ。あれほどテレビなんかで注意してんのに、被害に遭う人いてるんが不思議や」
「ほんまのこと言うたら、不思議ではないんちゃうかな。被害に遭う人が少なからずいてるいうんを前提に、対策を講じんとアカンのやと思うな」
「うちなんかビンボーでよかったね、おとーさん」