セミの夢 1
「ママン、聞いた?」
「聞いたて、なにを?」
「セミの声」
「セミの声?」
「聞いてないか?」
「聞いてないよ。おとーさん聞いた?」
「うん、聞いた」
「どこで?」
「うん、夢でな」
「なんやいな、夢かいな。鳴くのは梅雨明けやろ」
「6月にはいったんで、もうすぐとちゃうか?」
「梅雨明けんとあかんと思うよ。知らんけど」
「いまはもう馴れたけど、最初からクマゼミが鳴くんにはびっくりしたな」
「おとーさんのイナカは違うの?」
「順番があったな、5月ころやったかな。山に行くんやな、家で飼うてるメジロを風呂敷で包んでな」
「メジロを風呂敷で包むの?」
「包むいうてもじかにやないで。メジロの入ってる籠を包むいう意味やで。子供のころやからなんでそんなことするんか知らんかったけど、みんなやってたからな。ちょうど巣立ったころの子メジロを捕るいうんが目的や」
「そんなことしたら違反になるんと違うの?」
「おれが子供のころのハナシやからな。当時そないな法律なかったんちゃうか? 知らんけど。近所の家けっこう飼うとったでメジロ」
「そう。違反やなかったんや。子メジロてヒナのこと?」
「そうヒナやけどな、巣立ってるから自由に飛べるんや」
「それを捕るの? どないして?」
「うん。飼うてるメジロ、風呂敷で包んだやつやなあ、これ持ってヤマ行って、風呂敷の包み解いて、ちょうどええ木の枝のとこにそれを、メジロの入ったカゴのことやで、それを掛けるわけや」
「へええ、初めて聞いたわ」
「そんなハナシしてなかったかなあ」
「憶えないわ」
「そしてな、ちょうどええ具合の枝を折って、そこにトリモチを巻き付けてメジロの入ったカゴの桟と桟のあいだに挿してな、子メジロや親メジロが近寄って来るんを近くの藪やなんかのあいだに隠れて待つんや」
「それ、オトリやろ? それで近寄って来るの?」
「相手も警戒してるからな。そう簡単に捕まるわけではないけど、メジロがカゴんなか行ったり来たりしながらチイ、チイ鳴くやろ。寄ってくんねん」