セミの夢 3
「それからミンミンゼミな。おれらチーゼミ言うてたけど、このセミがな、その年のセミとの最初の出会いちゅうことになるわけや。それからクマゼミ、アブラゼミ、ツクツクボーシと夏休みがだんだん少のうなるごとに耳にするよーになるんやけど、宿題の『夏休みの友』、あれ友やのうて敵やな、夏休みの敵。ほったらかし、ほとんど手つかずのままやったからな。9月も目の前やで、アシタかあさってからガッコーいうんにおっかさんに怒られーの、アタマたたかれーの、もうむちゃくちゃや。あのユメのよーな時代はどこ行ったんや。今んなって思い出すとあれなんやったんやろな。この歳になったから言うんやけど、きっちり計画立てて、おっかさんにアタマたたかれることもなくやで、余裕よゆーで夏休みエンジョイできたやろに、まあユメのユメやな」
「おとーさん、えらい語るな、ムカシのハナシ」
「今んなって振り返りゃ、天国やからな、子供時代。イヤなこともあったんやろけど、そんなんぜーんぶ抜け落ちんまでも、やっぱり、釣りやら水浴びやら、山やら、あれやこれや無心で遊んだんをいちばん思い出すからな。考えるとオレ、子供のころだけで一生分の遊びやったんちゃうか? そう思うと、これからまだまだあそぼーなんて思うんはぜーたくなんとちゃうか? そんなことまで思うんやけど、それもイットキや。それはそれ、これはこれでまた欲が出んねん」
「おとーさん。きょうはいつもとちょっと違うよ。えらいハイになってんで」
「そやろ。自分でもわかるわ、べらべらとよーしゃべるわ。子供のころから『男は3年に3クチ』なんてばあさんに言われてたけど、ばあさん生きてたらなんて言うかな。そんなんやったんでしゃべるんは苦手やったんや。ところがいまはどや? クモが糸繰り出すみたいによーしゃべるやろ。バランスなんやろか? 一生のうちのしゃべる時間てこれくらいやでと、だいたい量が決まってるから若いときの分、取り返してるんやろか?」
「ほんまにおとーさん、ちょっと異常やで。コワなってきた」
「どこまで続くかやってみよか? ストップ言うてな」
「ストップ」
「言うやろ思た」