会話は大事
「そやな、おとーさん。付き合うたころから『なんやこの人は』思てたんやけど、おとなしいというか無口というか、ほとんどしゃべらん、クチが重かったな」
「そやな。今とはえらい違いやな。家の躾が、子供のころから、男はべらべらしゃべるもんやない、ばあさんなんかも『オトコは3年にミクチ』てなことをよう言うてたからな。そないな家族の中でやで、クモが尻から糸繰り出すみたいにべらべらしゃべるような人間ができるわけないやろ?」
「そらそやね。けど今はうるさいくらいやで、ようしゃべるようになったよなあ。なんで?」
「ああ、Aさんのおかげや」
「Aさんて、コンビで一緒に仕事してた人?」
「そうそう。あの人はすごかったな。アタマの回転の速さはとてもやないけど、まああの人の話についていってそれなりにおれもしゃべろうと思たら、知らんうちにしゃべれるようになってたんや。なにがきっかけかわからん。Aさんのおかげやな」
「ふんふん言うて、聞いてたらそれでよかったんちゃうの?」
「いやー、なんやかやと、おれもいろいろ訊かれるからな。それでこっちもAさんのしゃべりのテンポというかリズムというか、それに合わせてしゃべろうとしてるうちに、ママンからウルサイ、やかましいなと言われるようなおしゃべりになったんや。5年も一緒に仕事してたからな、コンビで」
「おとーさんがようしゃべるようになったからかどーか知らんけど、わたしはあんまりしゃべらんようになったやろ?」
「ああ、あのころのおれと正反対やったからな。仕事終わって家帰って来るんを待ってたみたいに、おれ、よう言うてたやろ。『服脱ぐまで待って』言うて」
「そんなことも、あったんやなあ」
「けど、若いっちゅうんはナサケないな。シンドうても愛するヨメさんの話『そうかそうか。へえー、そんなことあったんか』言うて、聞かなあかんかったんや。この歳になってわかるわ」
「そんなもんやと思うよ」
「しゃあないな」
「しょがないわ」