夫婦円満の秘訣
「おとーさん」
「なに?」
「ちょっと、おかしいんちゃう? 昨日から」
「なにがおかしいの? いつものボクちゃんやで」
「おかしい。なに言うても『そやな』言うてわたしの言うことに逆らわへんもん。昨日から急にやで。なんかきしょく悪いわ」
「なーんや、そのことかいな。そらしゃーない。ママンの言うことが当たってるわ」
「そやろ。急にホトケさんみたいになったんで、またなんかわけのわからんもんクチにしたんやないか思て、心配してたんや」
「言うーたらええねんで。おれに気ィつこーてたら胃ィ悪するで」
「なにかあったん?」
「ああ、田辺聖子さん亡くなりはったやろ。それで昨日の新聞読んでたら書いてあったんや」
「どんなことが?」
「ふーふ円満の秘訣」
「どんなこと?」
「ちょっと待ってよ。これこれ、この新聞や。これに書いてあんねや。訊いてよ。『夫婦円満に至る究極の言葉はただ一つ、「そやな」である。夫からでも妻からでもよい。これで世の中は按配よく回る』ということや」
「それで。おとーさんらしいな。、すぐに飛びつくとこ」
「花札のカエルか、おれは」
「たしかに。おたがいが『そやな』言うてたら、そないにもめることもないやろな」
「そやな」