朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

梅雨入り

「今年は遅いなあ」

「遅いってなにが?」

「梅雨入り。もう6月も半ばやで」

「何日か前に雨降ったやろ。あれ梅雨入りやなかったん?」

「そーみたいやで。天気予報であの雨は梅雨前線の雨やない言うてたからな」

「そーなんや。雨にも種類があるんかいな」

「金太郎アメとか桃太郎アメとか降ったら、おもろいけどな」

「おとーさんらしいな。オナカこわすで」

「またどっかで、バカみたいに降るんとちゃうかー、知らんけど」

「あれはもう何十年もまえになるんかな。大雨が降ったことことがあったやろ」

「ああ憶えてるよ。ママンと同じ会社におったころや。あのとき、どないして帰ったん?」

「憶えてない」

「おれあのころ、須磨に住んでたからな。仕事終わって、JRの住吉駅まで行ったら不通や、全然動いてない。会社から駅まで10分もかからんけど傘なんか役にたたへん。びしょ濡れ。しかたないんで会社戻って、乗ってた軽自動車借りて帰ることになったんやけどな」

「前にも聞いたことあるな、このハナシ」

「なんべんも言うてるからな」

兵庫区から来てた女の子がおってな、名前はもう忘れたけど。ママンも言うても憶えてないやろ?」

「全然憶えてないわ。友達やったら今でも名前言えるけど」

「2号線の脇ノ浜まで行ったときな、そこは池みたいに水が溜まっててな。角におはぎの『ナダシン』の本店? あそこが本店やったと思うけど、えッ? そうや、いまはもうない。あの横手の道路が下り坂になってるもんやから、もう川や。ロープ張って渡ったりしてるヒトもクルマんなかから見えるんや。女の子シクシク泣き出すしな。おれも『大丈夫大丈夫』言うてるけど、排気マフラーに水が入ってエンストしたらそれまでや。気が気やなかったと思うけど、うまいこと止まらんからよかったけどな」

「その子、兵庫区のどこに住んでたん?」

「もうまったく憶えてない」

「ところが一難去ってまた一難や。借りてるアパートの前が細い道路やったんや。そこにクルマ停めて、やれやれいうとこまでいったんやけど、翌日、雨はあがってたんやけど、会社行こ思て車バックで広いとこまで出そ思てバックしてたら、いつもはチョロチョロしか流れてなかった川の橋がこの大雨で落ちてんねん下に」

「そー言うてたなあ」

「えらいこっちゃ。会社行かれへん。前にも道は続いてるんやけど一カ所だけよけーに道幅が細うなったとこがあって、おまけに、電柱があるんやそこに」

「どないしてそこ抜け出したんやったかなあ? まえにも聞いた思うけど」

「その手前に割と広い空き地があってな。そこから海水浴場の砂浜のほうに続いてるんで、そこから砂浜通って抜け出す以外テはないんや。けど砂浜やろ。クルマ進まへん。カラ回りしてな。長いのやら短いのやら板きれ捜してきてやで、前輪の前にそれを敷くんや。それの繰り返しでやっとこさ脱出。須磨のなんとかいう病院があったやろ。あの手前にクルマがやっと通れるくらいの路地があったやろ? あそこまでやから距離にしたらそう何百メートルもないけど、何時間かかかった思うけどな。あの時は近所のヒト何人かに手伝うてもろうてな。ホンマに世話なったで」

「降らんかったらえーけどね」

「ああ、ほんまや」