年金波止場
「ママン、見てみ。よーけのニンゲンが釣りしてるやろ」
「そやねえ。いっぱいやね」
「今日は休みの日やないで、平日やで。平日でこれだけのヒトが来て釣りしてはんねん。釣れんよーになるんは当たり前、サカナよりヒトのほーが多いんやから」
「そないゆーても、釣りするんやろ、おとーさんも」
「イッピキでもつれりゃ家計の足しにならんか、思てな」
「なに言うてんの。買うたほーが安つくわ」
「エサのほーが高いからな、釣ったやつより。釣れてもこんなんばっかりや。というて家でゴロゴロしてたらヨメはんのコーゲキのマトやからな。半分は逃げてきてはんねん。おれもそのひとりやけど」
「あきれるわ。ワルモンやないの」
「冗談やがな。ついてきてくれるだけで有り難い、思てるで。どや、見渡すかぎりジジイばっかりやろ、おれみたいな」
「ほんまやねえ。若い人、ぜんぜんやねえ」
「ここは一文字防波堤やけど、別名があんねん」
「別名て?」
「ほんまの名前はなんちゅうかは知らんけど、別名、ユーメイやねん」
「別名? なんやのん?」
「『年金波止場』いうんや。笑うやろ」
「ほんまにィ。おもろいな」
「美空ひばりの唄で『波止場だよ、おとっつあん』いうんがあるけど、ここは『波止場だよおじいさん』か、『ジジイの波止場』や。だれかウタ作らんかな」
「売れるわけないやろ、知らんけど」
「そやな。売れるわけないな」
「けど、おとーさん、ノンキなこと言うてるばーいやないよ。2000マンエン足らんとかなんとか言うてるやろ。考えてみたら釣りなんかしてるばーいやないよ。知らんけど」
「しててもしてのーても、かんけーないやろ。なんやかやおれらがブツブツ言うても、ク二が勝手に決めてコーセー言うたらそれまでやろ。コーセー年金やからな」
「おとーさん、2000マンエン、なんとかしーや」