朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

むかしむかしのオハナシ

 むかしむかし、あるところで、おじいさんが死にました。

 おじいさんは赤鬼や青鬼、何人かに囲まれてエンマ大王の前に。

 おじいさんのクビには一番値打ちのある勲章が掛けられて、また、胸の前の両手にはご自分の位牌がひとつ。それは、一番くらいの高いお坊さんから授けられた、いちばんくらいの高い位牌なのです。

 このおじいさんは、自分が極楽へ行けることはすでに約束されたことだと思っていました。前世ではなんでも自分の思い通りにことが運んだので、万が一もしものことがあっても、エンマ大王を籠絡することなどたやすいことだと思っていました。

 それに、エンマの庁の入り口の前にはお裁きの順番を待つ大勢の人達がおとなしく列を作って待っておりましたが、このおじいさんはこの列に並ぶことなく、またおまけに、赤鬼青鬼に4、5に囲まれ、まるで警護でもされてるような感じです。そのようにしてエンマ大王の前に連れてこられたことは、自分が特別の人間であるからに違いないと、自慢げに鼻をクンクン鳴らしています。

「前世の行いについて、自分の心に問うてみよ」とエンマ大王。

「疚しいことはなにもございません」とおじいさん。

「人の意見に耳を傾けたか」とエンマ大王。

「どんなささいなことでも誠心誠意、丁寧に耳を傾け、わたしと意見を異にする人びとの話にも謙虚に、丁寧に、対応しました」とおじいさん。

「人を殺したことはないか」とエンマ大王。

「ございません」とおじいさん。

「じぶんのせいで、人が命を落としたことはないか」とエンマ大王。

「ございません」とおじいさん。

 最後にエンマ大王がひとこと。

「いま申したことに、誓って偽りはないか」

「はい。誓って偽りはございません」

「わしが尋ねるのは以上である。申し述べたいことがあれば、申し述べよ」

 ここぞとばかりおじいさんは前世での身の自慢を、ありったけの身の自慢を手振り足ぶり、それはまるで踊り出すのではないかと思うほど。そして最後に、首に掛けた勲章と両手で持っている自分自身の、最高に位の高い戒名が書かれた位牌をアタマの上に、まるで水戸黄門の印籠の、葵の紋所を見せびらかすように掲げ、できることならエンマ大王の鼻先にでも突きつけたいような勢い。身の自慢もここに極まれり。口から泡を吹くといったありさま。

 

 黙って聴いていたエンマ大王。すぐに判決が下りました。おじいさんの回りに控える赤鬼青鬼に刑執行の命令が下されます。

 まず、おじいさんの舌が抜かれます。続いて両方の目がえぐられ、耳と鼻が削がれます。そして最後に、アタマを割られ、赤鬼の荒々しい手で脳みそがつかみ出されます。

 

 むかしむかし、にっぽんという国がありました。 オシマイ。