ぼうず温けりゃ
「そやろ。そういうことや。こういうのを、なんて言うか知ってるか?」
「なんて言うの?」
「ことわざとかな、四文字熟語とかあるやろ。そういう喩えで言えば、なんと言うか、ちゅうことや」
「わからん、なんて言うの?」
「『ぼうず温けりゃケサまで温い』言うんや。知らんかった?」
「おとーさん、それちゃうやろ。それも言うなら『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』いうんが本当と違うの」
「ほんまはそうやないねん。おれが言うたんが、もともとほんまのことやねん」
「信じられん、聞いたこともないわ」
「そこまで言うんやったら、説明したろか」
「ええよ」
「坊主憎けりゃ言うけど、お坊さんいうたらそら大変な修行をして、これ自分の為の修行と違うんやで。国民みんなのため思うて苦しい修行をしはるんや。そんな有り難ーいお坊さんがなんで憎いの。憎まんとあかんの、バチ当たるで」
「そんなこと私が知ったことやないやろ」
「だから、自分の頭で考えなさい、いつも言うてるやろ」
「なんや偉そうに。そこまで言うんやったら説明してよ」
「『坊主温けりゃ袈裟まで温い』や、なあ。憎いやないで、温いやで。お坊さん大変な修行してはるんでどうしても血の巡りがようなる。するとどうなる? 体温が上がるやろ。着てる袈裟まで温なるんは理の当然、そういうことやろ」
「まあ、わからんわけやないけど」
「というて、これはこれだけのことやないんや」
「まだあんの?」
「まだあんのて、こっちのほうが意味が深いんや。お坊さん寝るとき、袈裟着たまま寝るか? そう、脱ぐやろ? その脱いだ袈裟を枕元に畳んで置いとくか、ハンガーに掛けるか、そら知らんけど。ところがやな、この袈裟、翌日の朝まで温い、こういうことや」
「どういうことよ。んなわけないやろ、翌日の朝まで温いて。袈裟の中に、ハッキン懐炉かなんか入れとんの」
「そういうことやないねや。ここにはな。掛詞いうんがな、隠れてんねや」
「カケコトバ?」
「そう掛詞。まあいまで言うたら、シャレとかダジャレみたいなもんやな」
「どこがシャレとんの」
「袈裟と今朝、お坊さんが着る袈裟と、今日の朝の今朝。なあ、どや、学があるやろ」
「しょーもな。そんなこと考えるヒマがあったら、30分でも余分に働いておいで」