朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

落語『蜘蛛の糸』ー39

 ここまで、日本でお馴染みの神様をほんの少しだけ紹介させて戴きましたが、神仏と申します。セットになっておりますからご紹介しないわけにはまいりません。ほとけ様も少しではございますがご紹介申し上げたいとおもいます。

 日光・月光の菩薩様、あの手この手奥の手、その手は食わぬの千手観音様、阿弥陀如来様に、子供の守り神でお馴染みのお地蔵様。子供の守り神と申しましても神様ではございませんで、本籍はほとけ様でございます。

 とは申しましても、こうして天国・極楽合同賢人会議にお集まりの皆様をご紹介するには時間がなんぼあっても足りません。このあとはわたくし噺家の気持ちの赴くままに勝手にお話をさせて戴きたいと、どうぞ、眠たいなとお思いになりましたらご遠慮なくお休みいただいて、噺を続けさせて戴きたいと存じます。

 では、いま大変話題になっております中国でございます。このお噺から中国を外すのは問題が多すぎるのでございます。

 一般に孔・孟・老と申します、三賢人、そのなかのおひとり、論語、子曰くで戦前の子供さんたちにはお馴染みの孔子様が中国勢の団長でございます。あとに続いて孟子老子のおふたり、また儒教道教の賢人方々のお顔に混じって、竹林の七賢と称される阮籍、嵆康、山濤、劉伶、阮咸、向秀、王戎の面々は丸い輪になって、リーダーであります阮籍の話をうなずきながら聴いておいででございます。

 その総勢380万人は、孫悟空が操縦致しますキント雲がこの場所へお連れしたのでございます。もちろん三蔵法師もおいでになって、供の猪八戒沙悟浄に、どこへ行ったか見当たらない孫悟空の行方を捜すようにと、眉をひそめておられます。いつのまにかふらふらと行方不明になるという孫悟空のこのクセは、なかなか直らないようで、三蔵法師の頭痛のタネなのでございます。

 さて、孫悟空の留守のあいだ、キント雲についてすこし説明をいたします。この雲は所有者であります孫悟空のおまじないひとつでとてつもなく大きくもなり、また、ポケットに収まるほど小さくもなるという変幻自在の雲なのでございます。そのスピードも桁外れで、秒速10万8千里、キロで計算しますと6万500キロメートル。地球一周がおおよそ4万キロメートルですから、光速、光の速さの5分の1という、これまで地球から発射されたどのロケットも足元にも及ばぬ優れものなのでございます。

 さてこのキント雲で運ばれてまいりました食料はなにかと申しますと、満漢全席で使う材料が山と積まれておりまして、その荷下ろしは、孫悟空の分身であるサルの役目で、今もせっせと荷下ろしが続いております。キント雲には宝船のようなクレーンがございませんので、人海戦術ならぬ猿海戦術で、さすが中国、この戦術には伝統的な強さがございます。

 万漢全席とはどんなものかと申しますと、山八珍、海八珍、陸八珍で、俗に申しますと山海の珍味、普通ではとても口にできない高価な、あるいは珍しいものが揃った中国の宮廷料理なのでございます。

 中国は「清」の時代と申しますから、今から300年ほど昔の、乾隆帝が統治していたころがこの万漢全席の始まりでございます。

 山海の珍しい材料をいくつか紹介いたしますと、ラクダのコブ、ゾウの鼻、サイのしっぽ、毒蛇などもありまして、熊掌、これは熊の手でございますが、熊の好物の蜂蜜、これはハチがぶんぶんうなりをあげている蜂の巣から失敬する蜂蜜でございますから刺されるのは覚悟の上、蜂の巣ごと掴んで口にするという、人間ではとてもできない芸当でございますが、その掴んだ手が蜂蜜が染み込んで美味だという、その熊が右利きか左利きか、それも材料選びのコツなのでございます。

 只今では普通に食べられておりますものに、ナマコやアワビ、フカヒレなどがございますが、珍のなかでも珍として有名なものには、ツバメの巣、また、蚊の目玉という、これは蚊を食べたコウモリのウンコを集めて、水で溶いて漉し、その後に残った蚊の目玉が材料の料理なのでございます。

 食べることとはどんなことか、つい考えてしまうのでございます。(つづく)