朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

『三度目の殺人』を観る

「おとーさん、最後まで観た?」

「ああ、観たよ。けど、ぼそぼそ言うし、はっきりわからんかったわ」

「大きしたらええのに」

「隣、めいわくなるやろ。10分もせんうち、コマーシャルやろ。気持ちが続かんわ」

「最後、どうなったん?」

「死刑」

役所広司?」

「そう。題が『三度目の殺人』やろ。役所広司が三人人殺しするんか思たらそやなかった。やったんは二回だけや」

「そしたら三度目いうんは、なんなん?」

「自分が死刑になるいうんが、殺人やいうことやろ」

「意味わからんわ」

「観とってな、『羅生門』思い出したわ。なんかみんな、ほんまのこと言わへん。自分の立場が優先するんや」

「途中で寝てたから、さっぱりわからんわ」

「十時ごろ電話あったやろ。だれやったん?」

「おねえちゃんや」

「なんやったん?」

「二回も電話あって切れたんんやて。うちかな思て、かかってきたんや」

「ママンやないやろ?」

「してない」

「弁護士の福山が、刑務所におる役所広司と面会する場面があるけど、言うことがころころ変わるんでどれがほんまなんかさっぱりわからん」

「けど、焼き殺されたんはウソやないやろ」

「ああ、あれはなあ」

「福山との面会のときな、世の中理不尽や言うて役所広司が怒るけど、こればっかりはなあ。いちいち気にしてたら、死なんとしゃーない」

「警察もえーかげんやし、弁護士もほんまのことはどうでもええ、どないしたら刑が軽うなるか、そのテクニックばかりに頭使うとるし、裁判官は裁判官で、裁判の進行が第一やし、ほんまのことはなんやねん、いうんは二の次三の次で、最後の方の裁判の場面で、役所広司が『おれやってない』言うんやけど、それまともに聞いてたら、また裁判最初からやり直しになるやろ。そんな手間かけとられへん。そやさかい、それまでにええ加減なことばっかり言うてたいうんで、また自分の命が助かりたい思て、ええ加減なこと言うてるいうて、結局、死刑や」

「そんなよう訳のわからん映画、最後まで観たな。いつもやったら寝てるのに」

「なんやったんやろな。おれももひとつわからん」

「おとーさん」

「なに?」

「おとーさん、おとーさんはなにも隠してないやろな? 知らんけど」

「・・・・」