續 来年の花見
「おとーさん、どこ行ってたんよ、フラフラとォ。油断も隙もないからな」
「シー! 大きな声だしな。家のなかやで、舟着き場とちゃうで。油断も隙もないてどういうこっちゃ」
「自分の胸に訊きんかいな。どこ行ってたん」
「郵便局や」
「なにしにィ?」
「決まってるやないか。昨日5000円小為替で送ってもろたん、返しに行ってたんや」
「どういうこと」
「アベさんに5000円送ってもろたんはええけど、肝心要本家本元は中止やいうやないか。しゃーない、返しとこ思て」
「中止、知ってたんおとーさん。なんで知ったん」
「テレビ、言うてたで。夕べ」
「ああ、それやったらええわ」
「それやったらええて、なんか問題でも」
「なんか問題でもて、セージ家やあるまいし。なに大層にいうてんの。で返してきたん?」
「あかん。受け取らん言うんや。ほんま、ユーズーきかんやろユービンキョク。そんなんやから、不祥事起こすんや」
「それとこれはちゃうやろ。送り先どこなん。アベさんに送ってもろたんやったら、そこ宛てに送らんかったらあかんのとちゃうの」
「どこか知らんもん。そやさかいユービンキョク、ユーズーきかせ言うてんねや」
「おとーさん無茶いうたらあかんよ。そんなん自分でせな」
「おれが? すんの?」
「決まってるやないの。皆が皆おとーさんみたいやったら郵便局、人なんぼおっても足らへん」
「雇たらええやないか。ケーキもようなるで」
「あきれるわ。ようこんなシトと50年も一緒におったな。自分を褒めたるわ。で、そのおカネ、どないしたん」
「そのおカネって、なんや?」
「決まってるやないの。持って帰ったんやろ」
「ああ、5000円か。これや」
「どないすんの?」
「どないしょ」
「ええんちゃう。もろといたら」
「けど、来年の花見に使う、言うてもろたんやで」
「じゃ、おとーさんの分だけ返したら。ちょうだい、2500円」
「おれが言うてもろたんやで。それやったらママン、丸もうけやないか」
「なにを細かいこと言うてんの。そやさかいセージ家、なられへんねや」
「なりたいとも思わへん」
「思う思わんの問題とちゃうの。なりとうてもなられへんの。ほんまに」
「ほなこれ、3000円な。500円お釣りちょうだい」
「だからァ、なられへんのォ、言うてるやろ」
「500円、ええわ」
「2000円、どないしょ?」
「いらんのやったら、もろたってもええよ」
「総取りかい。黄門さんやったら、言語道断打ち首獄門やで。あとで、『返せ』言うてきたらどないしょ」
「『破棄しました』言うたらええんやないの」
「おカネやで、破棄するわけないやろ」
「そやさかい、弁当買うておなかのなかに破棄しました、言うたらええねん」
「頭ええなあ。けど、使い道は花見の費用やで」
「『個人情報、プライベートの問題です』言うて、ほってたらええねん。そのうち忘れはるわ」
「えらいヨメはんやな」
「ヨメはんやめて。わたしフランス人やで。ママンやろ」
「・・・・・・」