高齢者認知機能検査
「おとーさん、お帰り。どやった、試験?」
「助かった。最初の16個が出たからな」
「最初て、どんなんやったかな?」
「耳に聞く、ラジオオルガンどん! 大砲」
「ああ、それ。よかったやん。何人くらい来てはったん」
「10人やな。9時半にな、自動車学校の人に名前呼ばれて、『認知機能検査』の看板のある部屋にぞろぞろ、ジジイとババアが引率されるわけや」
「へええ、そうなんや」
「そう。机と椅子がセットで10個、前から3カケル3で9個、その後ろ、前から4列目になるんやけど、そこに1個で計10個になるんやけど、そこに、名前呼ばれた順にジジババ1年生が座るんや」
「ハハハ、ジジババ1年生、大丈夫かいな」
「それやそれ。その最後の人がちょっと耳が遠てな、そんなに離れてないんやで。けどあかんからいうて、オレがおる1列目に来はったんや」
「オレの耳にはけっこう大きな声やけど、『大丈夫ですか』言うて、まあ検査が始まったんやけど、絶対わたしの指示に従ってください、言うんや。検査内容の手順なんかを書いた冊子が配られるんやけど、勝手にめくったりせんとってくれ、いうことやなな。鉛筆も向こうが用意したもんを使ういうことで、それぞれ1本づつ渡してくれてな」
「へええ、それやったら筆箱いらんかったやん」
「いや、ボールペン持っていっててよかったわ」
「鉛筆だけやなかったん」
「最初に配られた1枚目の紙に住所、氏名、生年月日なんか書くんやけど、これはボールペンで書け、言うんやけど、最初の注意な、勝手はあかんねや」
「最初の注意て、なんやった?」
「指示に従ってください、ちゅうやつや。勝手に書き始めたらあかんねん。『ハイ、ボールペンを手に持ってください。ハイ書き始めてください』ということや」
「へええ、厳しいな」
「まあ、試験やなくて検査やけど、受けるもんの公平を考えてのことやろけどな」
「絵を見せてそれを当てるのが一番難しい言うてたやろ。うまいこといったんやな」
「ああ、練習しといてよかったわ」
「全部覚えるんやった何個やったっけ」
「ABCD各16個やから64個やな」
「検査はそのABCDのうちのどれか、それはその時やないとわからん、言うてたな」
「そうや。そういうことらしいわ」
「で、最初のAが出たんやな」
「そう、学校の黒板やないけど、掲示板みたいなやつに絵や文字が出てな。そこに最初の4つの絵が大砲、ラジオ、オルガン、それと耳の絵が写し出されるんや」
「それでどうすんの?」
「うん、そこでな。検査する人がその絵のひとつひとつを手に持った細い棒で指して、これは『耳』です『ラジオ』です、『オルガン』です言うて、説明するわけや」
「はあ。それで覚えていくんやな」
「そう、そういうことやけどな。それでな、声に出したほうが記憶に残る言うてな、この絵のなかで『身体の一部』はなんですか? 言うて訊かれるわけや」
「はあ、ハハハ、ほんま1年生やな」
「そやろ。それでジジババ1年生が声合わせて、『耳です』、武器はなんですか? 『大砲』です。楽器は? 『オルガンです』。とまあこんな感じでやるんやけど、だんだんジジババの声が大きなるいうんが、無邪気で可愛らしやろ」
「ハハハ、よかったねえ、おとーさん。検査料750円出した値打ちあったやないの」