藤原さ~ん、出番ですよ~
「テレビ点けたらどこもかしこもちゃわ尻ちゃわ尻や、もううんざりやな」
「しゃあないやないの、悪いことしたんやから」
「そやな。悪いことしたんやからしゃないな。観らんかったらええんやからな」
「わかってるやないの、おりこうさん」
「もうだいぶ前になるけど、藤原正彦いう人が『国家の品格』いう本を出しはったんや」
「へえ、そうなん。おとーさん読んだん」
「いや、それが読んでないねや」
「なんや、読んでないんかいな」
「読んでないねん。ところがな、その本がえらい当たって売れたんや。ベストセラーいうんかな」
「そうかわかった、それでおとーさん読んでないねんな。へそ曲がりやからな」
「そやねん。売れてる本に飛びつくんはオレの美学に反するからな」
「なにが美学やの、美学やのうて、おとーさんの場合が鼻炎や。いっつもくしゃみ鼻水トイレットペーパー持ち歩いてるやないの」
「うまいこと言うなあ。ウデ、上げたな。待て待て、そんな話やないねや。品格品格。その本がベストセラーになったんはええけど、その後『雨後の竹の子』や」
「なに? 雨後の竹の子て」
「ああ、なんとかの品格、かんとかの品格、もう品格と名のついた本がつっから次に出てきたんや。もうこうなったら品格もなにもあったもんやない。汚い話やけどミソもクソも一緒いうやつや。言やあ品格とは名ばかり、品のない下品な話やけどな」
「そういうけどおとーさん。そのなかの1冊でも読んだんか」
「いや、1冊も読んでない」
「読んでなかったら、品がないとか下品とか言われんのと違う?」
「いや、オレが言いたいんは本の内容の話やのうて、儲かるからいうてつっから次にそないな本が出版されるいうが嫌やなあ、思うんや。それが品格本いうんがまた、えらい皮肉が効いてるからな」
「儲かるとなりゃあ、誰かて考えるんとちゃうの?」
「まあなあ。ママンの言うんが、せー解やけどな。けどこの現象って、テレビのちゃわ尻ちゃわ尻の問題と似てる思わへんか。話題になったらどのテレビ局もつっから次に、どこ切ってもおんなじ金太郎アメみたいにいち日じゅうおんなじ画像を垂れ流して、さも自分らが良識の代弁者でござい、みたいな、ええかげんにせー、言うんや」
「またおとーさん始まったな。いじわるばあさんはええけど、いじわるジジイは絵にならんでおとーさん、それって皆興味あるからテレビ局もつっから次に流してるんとちゃうの? 知らんけど」
「そやな。それがほんまのことやろ。だれもがアホらしい思て観なんだらテレビ局もちょっとは考えるやろけどな。けど今の世の中、上から下まで、無茶苦茶や。品格どこ行ってしもたんやろ。これ日本だけやのうて世界のあそこもここも、上下左右東西南北、品のないことおびただしい。藤原さ~ん、出番ですよ~、言いたい」
「そらそうと、人のことはええけど、おとーさんはどうなん、ヒンがある、思てんの?」
「ゴメンチャイ、自分のこと忘れてた」