どんな夢、見たん?
「いや、見てないよ」
「そおお、なんかしら鼻の下伸ばしてニヤニヤしてたんでやらしい夢でも見てたんかいなあ思たんやけど、見てないの?」
「うん、憶えとらん、見たかもしらんけどな」
「見たかもしらんて、見てたんや思うよ。言うたらええのに、夢の話やないの」
「う~ん。言われてもなあ。見たんやったら見た言うけどな。隠すことないしな」
「そやろ。そやさかい、言うたらええのに。夢やで夢、どないな夢でもハハハ、笑たらおしまいやないの。さあ、言い」
「さあ、言いてママン、取調室みたいやがな」
「そやさかい言うてるやろ。夢やろ。見たんやろ? 白状してもバチ当たらんよ」
「白状! バチ? えらいことになってきたな。オイオイ、なにしてんねや、ボストンバッグ持ちだして」
「わかるやろ。夫婦のあいだで隠し事はせん、約束やろ」
「わかった、わかった、白状するわ。罪も認めるからそれだけはやめて」
「それやったらええわ」
「フランス人やからなあ」
「なにぶつぶつ言うてんの。しゃあない、聴いてあげるわ」
「ママンがフランスに里帰りしてるときの話やけどな」
「ほ~れ見ィ、そやろ、やっぱりやろ」
「待て待て、夢の話やないか」
「夢かて許されんこともあるんやで」
「ちゃうちゃう。最後まで聞きいな。ヤマちゃん夫婦が家に来てな」
「久しぶりやないの」
「そうや。久しぶりやなあ、言うて。それで『ジャンヌは?』言うて訊くからな、それでフランス帰ってる言うたら、なんで? 言うから『いや、何でもない、しばらく帰ってなかったからな』言うたら、そんなことない『なんかあったんとちゃう?』言うて、ジャンヌには黙ってるから言い、もう50年も続いてる友達やろ、隠してるなんて水くさいでと、こないなこと言いよんねや」
「やっぱりな」
「なにがやっぱりな、やねん」
「友達からも疑われるいうんは、おとーさん、よっぽどやで」
「なにがよっぽどやねん。言え言え言うから言うてんのに、よけえ悪なってるやないか」
「隠すからやろ。なあ、そんなんでとうとう、花見も中止や」
「どこへ飛んでんねや」
「それで?」
「それで、て?」
「ヤマちゃん夫婦に白状したん?」
「白状? なにを?」
「なにを? って、隠すから中止になってまう、言うてるやろ」
「中止になろうがなるまいが、オレにはかんけェないやろ」
「居直ったな。やっぱりな」
「わかった。ほんまのこと言うわ」
「最初からそう言うてくれたらこないな騒ぎにならへんかったのに。忙しいのに、時間の無駄やわ」
「孫悟空がな」
「ソ、ソ、ソンゴクウ? 問いに対して想定外の答えが返ってきたやないの」
「夢の話やからな。しょがない」
「それで?」
「キント雲に乗って孫悟空がオレんとこ来てな」
「うん」
「どんな夢、見たん? 言いよんねや」
「えええ~、おとーさんあんた、ソンゴクウにも疑われたん」
「どうもそのようやな」
「それで白状したん?」
「さっきから白状白状て、オレ、そないに信用ないか?」
「ない!」
「必殺やな」
「それで?」
「ああ、孫悟空やな。夢なんか見てない、言うたら、まあオレにウソつくんはしゃあない。けどお釈迦様にはさすがにおまえもウソがつけんやろ、お釈迦様のとこへ連れて行く言うて」
「ほうほう、おもろなってきたやないの。それで?」
「こうなったらしゃあない。お釈迦はんが言いはんねや『なにごとも、御仏の心に委ねなさい。南無阿弥陀仏』言うてな。それでお尋ねになったんや」
「なんて?」
「どんな夢、見たん?」
「さすがにお釈迦様や。ここまで引っ張ったら白状せんわけにはいかんやろ」
「なかなか」
「なかなかて、なんやのん?」
「見てないのに、言うわけないやろ」
「しぶといなあ、ウソでもええから言わんかいな」
「とうとう怒りはってな。『地獄へ堕ちろー!』言うて、蓮池へドッボ~ンや」
「さすがお釈迦様やな」
「なにがさすがやねん」
「ようわかってはるわ」