續 見知らぬ人に声をかけられる
「昨日、話したやろ」
「なに? なんのこと」
「知らん人に声かけられたいう話」
「ああ、あのこと。駅前で会うたいう人やろ。なに? まだ続きがあんの?」
「今朝もまた会うてな。向こうから『どうも昨日は失礼しました』言うてな」
「知らん人やったん」
「そう、知らん人やったんや」
「人違いやったん?」
「いや、それがそやないねや」
「そやないて? わけわからんわ」
「オレもな、聞いたときはそないなこともあるんやなあ思たんやけど、咄嗟のことやからな、オレかてあるかもわからん思たわ」
「言うて」
「ああ、前、もう10年以上前の話やけど、電車通勤してたやろ」
「そやね」
「そのときのな、いつもオレの前に座ってた人やったんやて」
「それやったらおとーさんも、見覚えがあるんちゃうの」
「いや。オレがいつも乗るんは、混雑がいややからな、駅発の電車に乗ってすぐにカバンから本出して読むやろ、全然気がつかんかったんや」
「ああ、そういうこと」
「ところがな。その人はいつもオレの後から乗ってきて『この人いつも本読んでるな』そない思てたらしいわ」
「それでつい、挨拶しはったいうわけやろか」
「そない言わはんねや。なにがあるかわからん話やろ」
「それでいろいろ話したん?」
「いろいろいうこともないけどな。『どこお勤めですか?』言わはるんで、この下の駐輪場です、言うたら、わたしも駐輪場です、いうてな」
「おとーさん、なんかあやしいな。作り話とちゃうの、駐輪場てどこよ?」
「いや、これホンマの話。駐輪場はな、高架下にあって、会社がちゃうねん」
「おとーさんが年齢制限で断られたとこのこと?」
「はっきりは訊かなんだけど、そこやと思う」
「それやったら、これからもちょこちょこ会うな」
「そうなるやろな」
「お茶行きましょう言われたら、どうする?」
「そやなあ。あんまり。知らん人やからな」
「行ったらええやん。もう知らん人やないやろ。なにかのご縁があるんちゃう」
「流れでな」