見知らぬ人に声をかけられる
「駅前で声かけられてな」
「どこで?」
「駅前、北側の改札の前や。仕事行く途中」
「だれに?」
「知らん人」
「しらん人? 知らん人てだれよ」
「そやさかい、知らん人や」
「だからあ、知らん人いうても、知らん人が声かけてくるなんてないやろ。だれやあ、訊いてるんやないの」
「知らんがな。知らん人やから知らん人や言う以外ないやろ」
「『どなたですか?』言うて、訊かんかったん」
「訊かんかった。仕事行く途中やからな。すぐ終わるやろ思て」
「声かけられて、どない言うて声かけられたん」
「『お久しぶりです』言うてな」
「それやったら、知った人とちゃうの」
「いや、知らん人や」
「忘れてるんとちゃう」
「いや、そんなことない」
「お久しぶり、言わはったんやろ」
「そうや。いやオレもな、アタマんなかフル回転するわなあ、エーアイを内蔵した頭脳が」
「なにがエーアイよ。それやったらだれやったか、すぐわかるやろ。エーアイはその人の正体突き止めたん」
「わからん。これやったらファイブジーと入れ替えんとあかんな」
「あきれるわ。こっちはマジメに聴いてんのに。作り話やろ」
「ちゃうちゃう、ほんまのことや」
「それで、どんなハナシしたんよ?」
「それがな。憶えてないねや。だれやったかなー? いうんをエーアイが検索してるあいだ、オレの目ェは宙をさまよってたんや思うわ。『では、失礼します』言うて行ってしまいはったからな」
「憶えてないな、思いはったんやわ。おとーさん、失礼なことやで」
「知らんからなあ。言われてもなあ、オレが悪いのかなあ」
「まあ、ええ悪いはどっちでもええけど、気ィ悪しはったんは間違いないやろ」
「また会うたらどないしょ」
「それやったら、今度はおとーさんのほうから声かけたらええねん」
「あかんわ」
「なんで? なんであかんの」
「その人の顔、憶えてないもん」