人間落第
「ママン教えて」
「なに?」
「落第の反対ってなにかな?」
「そんなことも知らんの?」
「知らんから言うてんねや」
「おとーさん、知っててワザと言うからな。油断でけへんやろ」
「アホらしい。ふーふやで。オットのことが信じられんでどうすんの」
「それでこれまでなんぼ煮え湯飲まされたか」
「おー、煮え湯、ええな。雰囲気出てきたな」
「なに言うてんの。えーッ? なにが訊きたいて」
「落第の反対語」
「知ってるやろ? 合格やないの」
「それやったら、合格の反対語ってなんやろ?」
「おとーさん、ボケるんはまだ早いで。いま言うたばっかりやろ。落第やろ」
「いやいや、それやったら、不合格いうんもあるやろ? 不合格の立場はどうなるんやろ?」
「それやったら、落第の本妻さんを合格、不合格をオメカケさんにしたらええんろ。知らんけど」
「なるほど。納得したわ。訊かれたらそう言うわ」
「だれもそんなこと訊かへんて。おとーさん落第て、なんでそんなこと訊くの?」
「ああ、若いころオレな、ゴーマンな人間やったやろ」
「言うたやろわたし。『おとーさんは変わってる』言うて。『そんなことない、おれはまともや、間違いない』そない言うて突っ走ったやろ。よう言うてたやんおとーさん、『アイツ、痩せウマの先走りや』言うて。自分では気づいてなかったん?」
「自分のことはな、なかなかな、気づいてなかったんや。それが後期高齢者を目前にして気づいたんや」
「遅いわ。けど気がついただけ、よしとしたろ」
「してくれるか。ありがとう。若いころのあれこれ思うと、ママンにも子供にもスマン、悪かった思う。ほんまにオレは人間落第、人間失格やと思う。いまごろ、こないなこと今頃言うても『もっと早よ気づかんかい!』てなもんやろけど、しゃーないもんな」
「自分で言うて自分で納得して、おとーさん、なにが言いたいの。わけわからん」
「・・・・」