ええ時代
「ええ時代やな」
「おとーさん、なに言うてんの。なにがええ時代やねん。消費財は上がる、国の借金はバカみたいに増える一方、消費税上げたばっかりやのに、その舌の根も乾かんうちにいけしゃあしゃあと、赤字国債出す言うてるやろ。わたしに任せてみィ! 言うんじゃ」
「マ、マ、ママン、落ち着け、分かった分かった。オレもそんな意味でええ時代言うたんやないねや」
「どんな意味で言うたんよ」
「いつも日曜日朝にやってるやろ。ママンも観てるテレビ」
「おしん、やろ」
「ちゃうちゃう。おしんは日曜日はやってない、あれは平日と土曜日や」
「ああ、あれかいな。葵3代、徳川家康のハナシやろ」
「そうそう、それや。いまは2代将軍秀忠から家光に移ろうかというとこやけどな」
「それとええ時代と、なんの関係があんの?」
「ママンの言う通りオレらにとっちゃそないにええ時代とは言えん、先のこと考えると『オイオイ、どないなんねや』いうとこやけど、ええ時代言うんはオレらとは違う世界に住んではるあの人ら、テレビや新聞でえらい話題になってるあの人らのことや」
「ああ、あの人らな」
「そうや。世の中だんだん言いたいことも言えんような、えらい息苦しいことになってるみたいやからメッタなことは言えんけど、あの人らにとっては天国か極楽かいうようなええ時代とちゃうか」
「そやさかい、それと徳川家康となんの関係があるの?」
「わからんか?」
「わからん」
「緊張感が全然ちゃうんやな。なんか問題起こしても逃げ隠れして出てこん。説明します言うて約束しててやで。それでボーナス・給料はしっかり貰う。これみんなゼイキンやで。ほとんどオレが出してる、言うんはいつも言うジョウダンやけど、ほんまに緊張感ゼロ。なにかあったら正真正銘、『イノチ』差し出すいうおサムライの時代とは比べもんにならくらい、あの人らにとってこないなええ時代はないやろ、そういうことや」
「ほんまやで。なんでこないなことになったんやろ」
「そら回り回って、オレらにも責任があるんやろな。オレらジジイも温和しなったし、若いもんもワーワー言わんようになったからな」
「まあ、わたしらがごちゃごちゃ言うても、どうもならんからね」
「ほんまは、それじゃあかんのやろけどな」