ダルマストーブの思い出
「電車のなかで、ストーブ焚いてるわ、あんなことあんねんな」
「ああ、あれ石炭かな。みたいやな」
「津軽鉄道、言うてるわ。青森やね」
「そやな。ダルマストーブ、いうんかな」
「暖房ないんかな、電車のなか」
「どうなんやろ。あれが『売り』なんかな」
「あんなんにあたったことないわ」
「オレ、子供のころな、家が駅前にあったやろ。それで、イナカやろ。駅舎のなか、駅員さんがおるところに勝手に入って、ストーブの火にようあたったもんや。ストーブの横手の土間んとこに石炭がちょっとばかり山の形に積んであって、勝手にスコップですくうて、燃やすんや。そや、スルメ焼いたりモチ焼いたりもしてたな」
「そんな勝手なこと出来たの?」
「イナカやからな。駅長さんと駅員がふたりくらいの小さな駅や。いまはもう鉄道廃止になって何十年にもなるけどな。近所の人もちょくちょくあたりに来て、まあ、ああでもない、こうでもないいうハナシをして、ちょっとしたオトコの井戸端みたいなもんやったな。駅長さんが、ツガワさんいうてな。名前がタテキさん。名前まで憶えてるんは、あれやろな、子供のときの記憶はなかなか消えへん言うやろ。ムスコが3人、オトコばっかりの3人や。ふたりがオレよりふたつとひとつ歳上、オトンボのケンちゃんがオレよりひとつ歳下で、長男のセンユウちゃんが釣りなんかよう連れて行ってくれたな。みんなやさしいてな。いつもニコニコしてるんが記憶に残ってるけど、お父さんお母さんが、いつもニコニコしてはったからな」
「ふーん、ええ思い出やね。けど、子供が駅員さんのおる部屋に勝手に入ってストーブにあたるなんて、いまやったらなに言われるか」
「そやなあ。ええ時代やったんか、たまたまやったんか。ママンの故郷フランスではどうなんや」
「それはええねん。わたしが旅行でフランス行ったからいうて、おとーさん、わたしをフランス人にせんとって」
「訊かれて、フランス人です言うたほうがカッコええ思うで」
「だれも信じへんわ」