朝ぼらけジジイの寝言つれづれに

夜中に目が覚めて、色々考えることがあります。それを文章にしてみました。

気分はインディアン

 おれの友達の友達が尻池2丁目の交差点の角でガソリンスタンドの店長をしていた。角ハンドルのオート三輪はここで借りたものだ。おれはどこかへ旅行しての帰りだった。どこへ旅行したか、だれと一緒だったか、きのうまでは憶えていたが、いまは憶い出せない。仕方がない。親切にも、角ハンドルのオート三輪を用意してくれた店長の顔も憶い出せないのだ。ここへ来たときはふたりが一緒だった。憶えているのはそれだけだ。ふたりの性別も顔も年齢もあやふやだが、なんとなく憶えているのは、ほぼおれと歳が近かった、若いということだけだ。ふたりはオート三輪の荷台に乗った。運転席には、運転するおれひとりしか乗れない。運転席に馬乗りにまたがって角ハンドルの感触を確かめる。いい感じだ。この型のオート三輪は初めてではない。まだ、運転免許を取る前のことだ。初めて乗ったのは中学校を卒業して2番目の就職先。「光永乳業」という、とても会社とは言えないが、回収した瓶の洗浄をする近所のおばさんを含め、おれも入れて5人の従業員がいた。角ハンドルの三輪車は、ガラス瓶につめた牛乳を、田舎のいくつかの町村の商店に配って回る配達用だった。その時はただ運転席にまたがって、両手で握りしめた角ハンドルの両端を軽く前後に動かして運転してる気分を味あうだけで満足だった。キックしてエンジンを始動する。運転席から腰を浮かし、足裏のくぼんだところをあてがったキックレバーを思い切り踏み込む。と同時に、左手で握り締めた角ハンドルの先端を手前に回す。イッパツだ。エンジンの発する振動と、アタマに浮かぶ吸入圧縮爆発排気が高速で、絶え間なく連続する音が心地よい。