ヒトを見たらドロボーと思え
「ママン、黄門さんな、おれが思てることとおなじこというてはったで」
「水戸黄門?」
「そう、東野英治郎の黄門さん」
「おとーさんとおなじやて、なにが?」
「歳とると疑り深うなるゆーてな、助さんやったか格さんやったか憶えてないけどゆーてから、ハッ、ハッ、ハッ笑うてはったわ」
「おとーさん、そないヒト疑うたら、アカンで」
「ママンは別やで。ママン以外はしんよーならん」
「なんかあったん?」
「いやー、よーけありすぎて、アタマんなかゴチャゴチャや。せーりがつかん」
「それでテレビ観て、ゴチャゴチャ文句ゆーてんねんな」
「そーや。コマーシャルがしんよーならんやろ。トーク番組も出てる連中のゆーてることがしんよーならんやろ。なんやねん、テレビ出てゼニよーけ貰うて『あなたたちの味方です』みたいなカオして、ええかげんにせーよ、ちゅうねん。そや、思い出したわ。ケーサツもしんよーならんな。ガッコのセンセーやろ。教育委員会やろ。セージ家やろ。カンリョウやろ」
「重症やな。わたしがおらんよーになったらおとーさん、野垂れ死にか部屋んなかでヒトリ、孤独死やで。知らんけど」
「ああ、カクゴの上や」
「強がりゆーて。そないなったら、『助けてくれー助けてくれー』ゆーても、ほっとくで」
「なんでェ? しんよーできんのんはママンだけやゆーたやろ? ママンまでおれを裏切るんか?」
「ゴメンなあ。わたし、おとーさんがしんよーならんねん」
「ママンも疑りぶかいなあ」