2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧
「ママン! すごい映画やなあ!」 「そーやねえー、すごいねー」 「これまで観る機会はなんべんもあったんやけど、なんーかしら観る気がしなかったんや。単なる甘い恋愛映画と勝手に思い込んでいたんや」 「めずらしいね。映画ずきのおとーさんが観てなかっ…
出発だ。動き出した。エンジンの爆発音と振動が心地よい。ポンポンポンと、マッチ箱のような小型漁船に積んだ焼玉エンジンを思わせるリズムだ。変速機をコントロールするシフトレバーは一本の、直径1センチほどの鉄棒となっておれの左足のすぐ横の床面から延…
「なにが?」 「いや、気になってしょがない」 「だから、なんの話?」 「続けて観るからよけーそう思うんかな」 「だからァ、なんのことよ」 「『おしん』と『なつぞら』」 「どこが気になんのよ?」 「トーキョー出てきてるやろホッカイドーから」 「いま…
おれの友達の友達が尻池2丁目の交差点の角でガソリンスタンドの店長をしていた。角ハンドルのオート三輪はここで借りたものだ。おれはどこかへ旅行しての帰りだった。どこへ旅行したか、だれと一緒だったか、きのうまでは憶えていたが、いまは憶い出せない。…
「そやな、おとーさん。付き合うたころから『なんやこの人は』思てたんやけど、おとなしいというか無口というか、ほとんどしゃべらん、クチが重かったな」 「そやな。今とはえらい違いやな。家の躾が、子供のころから、男はべらべらしゃべるもんやない、ばあ…
「行く?」 「行こか?」 「三宮やな?」 「三宮」 「あそこのソバ飯、おいしいからな」 「電話したんやろ?」 「した」 「どやった?」 「おなかこわしてるんで、やめとく、言うてた」 「そうか。それやったらしょがないな」 「おとーさんに、ありがとう、…
ぎこちなくワイパーが動いているのはまだ雨が降っている証拠だ。おれは旧いオート三輪の角ハンドルを操って今、国道2号線を走行中、目の前にある信号機の左前方には国鉄・神戸駅の駅舎が雨に煙って沈んでいる。おれが操る三輪車のヘッドライトはひとつ、照ら…
「なに?」 「政治のことやけど」 「セイジて? あのアベさんがやってる、あの政治のこと、わたしに訊きたいて? むりむりむり。アホなこと言ういな」 「そない言わんと教えてよ。どーもわけわからん?」 「おとーさんにわからんことが、わたしにわかるわけ…
「なに? なんの話?」 「続き」 「続きて? なんの続き?」 「いまなに話してか、憶えてないの?」 「なに話してた? なんやったっけ?」 「頼むで、おとーさん。ボーッとしてんじゃねーよ! 言うて、叱られんで、チコちゃんに」 「なんやったかなあ?」 「…
「ママン、なんで起こしてくれんかったん! テレビと一緒にカウントダウンしたかったんや」 「よー言うわ。よー寝てたよ、大っきなクチ開けてェ、よだれ垂らして。よっぽど起こそか思たんやけど、寝かしとこ思たんやないの。なにも言うてなかったやろ。ひと…